ルーシー・クートは陶器ブランドSalad Daysのクリエイター、陶芸家。ブランド名はシェイクスピア文学にも言及のある古い慣用表現で、輝く青春時代を回顧する際に使われる。庭の物置小屋で陶土の成型作業をする彼女が追求するのは、機能性と触り心地に焦点を当て、時代を超えて日常で使い愉しむことのできる器だ。
窯を設置しているガレージに入ると、まだ釉薬をかけていない器がずらりと並ぶ様子が真っ先に目に入る。列をなした力強い造形の数々が美しい影を落とす。
Interview 「ミニマルな美しさが機能性に出会う時」
ガレージのシャッターからルーシー・クートがそばかすの頰を覗かせる。青いオーバーオールにTシャツを着て、ガレージの中のスタジオに私たちを迎え入れる。大きな窯の前で、まだ釉薬がかかる前の陶器が規則正しく円を描くように並ぶ。
「小さい子どもたちがまだ寝てるから、音が出る制作をする時はあそこにいた方が良いかなと思って」。ルーシーはそう言いながら、緑色に塗られた木製ドアのある古風な物置を指差す。
生来備わっていた創作意欲を最大限消化するため、ルーシーは日中に別の仕事をしながら夜間の陶芸教室に通う日々を過ごした。ほどなくして彼女は陶芸の虜になり、通っていた教室の正式なメンバーとなる。その後は香港やオーストラリアで数年生活をしていたこともあったが、常に仕事の傍ら様々な陶芸の先生に師事。多様な創作スタイルや技術の幅を広げていけばいくほど、その魅力にのめりこんでいった。
「私の友人がいくつか作品を売ってもらえないかと言うので、そのために自分でカタログを作りました。そのカタログを私の器を最初に取り扱うことになった地元のショップ兼ギャラリーPrecinct 35に渡したことで、全てが進んでいきました」
2010年に夫とともにシドニーに移住した際、ルーシーは新しい仕事を探すことに。求職中も自宅で陶芸をすることが彼女の日常の大半を占めることになり、それをSalad Daysと言う屋号でビジネスとして展開し始めた結果、大きな飛躍を遂げることになる。創作を重ねる過程で彼女の造形表現は自然と発展を遂げ、現在の洗練されミニマルでありながらどこか親しみのあるスタイルにたどり着いた。
彼女の1週間のルーティンとして、まず週の前半に陶土成型を行い、1-2日乾燥させた後に形を整えていく。週の後半に仕上げにかかり、作品の受注発送やメール対応など事務仕事に取り掛かる。毎日儀式的に繰り返す器作りのクオリティを高めることを目標にする彼女は、自身をアーティストというより職人として認識している。
「私の器は日常づかいしてもらいたいと考えています。機能的でありながら美しくあってほしい」 そう話す彼女の器作りの出発点は、その器がどんな状況、目的で使用されるかを考えることからだと言う。例えば飲食店から特定のメニューのための器を依頼されたとき、客がどのように使い、また料理人がどのように食事を盛り付けるかまで考える。機能性と美の両軸のバランスを見出すのが彼女の仕事の基本だ。
Salad Daysのネーミングは、よき日々を回想する際に用いられる英語の古い慣用表現に由来する。その名にふさわしく、ありふれた日常に潜む小さくも素晴らしい瞬間を祝う役割を果たすのが、彼女の器だ。
創作意欲を消化するため、昼間の仕事の傍ら夜間の陶芸クラスに通ったルーシー・クートが2016年に開始したブランド。機能性と触り心地に焦点を当てたルーシーの手作りの器は、日常づかいに喜ばれる品だ。