Dialogue with Nature #02

「シャクナゲの花 − 天城山」 鈴木優香

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山を歩くとき、なるべく色々なものを見ようと心がけている。けれど、視界に入っていながら認識していないものも実は多い。目的を定めて山に入ったときは尚更だ。天城山を歩いたあの日、もしもシャクナゲの花が咲いていたら、果たしてどれだけのものに気付くことができただろう。

桃色のシャクナゲを求めて天城山を訪れたのは、4月下旬のこと。例年5月から6月にかけて咲くが、今年は桜の開花が早まったため、シャクナゲもそれに続くのではないかと考えた。しかしどの蕾も固く閉じたまま動かず、ついに1輪の花も見つけることはできなかった。それでも心が十分に満たされたのは、今まで意識したこともなかった木々の魅力に触れたからだ。

ひとつは、アセビというツツジ科の低木。その幹は大きくうねりながら様々な方向に伸び、細かく分かれた枝の先には深い緑色の葉が茂る。この山がどこか自由な雰囲気で生き生きとしていると感じたのは、このアセビが好き放題にうねうねとあちこちに伸びていたからだった。

万三郎岳から万二郎岳を繋ぐ尾根は、特にいい。奔放な幹が登山道を跨ぐようにして伸び、トンネルを作っている。私は身を低くしてそれをくぐりながら、複雑に絡み合った枝の行方を探した。白くふっくらとした花は鈴なりに咲く。それはちょうど私たちの目線の高さにあるので、自慢の花をこちらに差し出しているようにも見えた。

キャラメル色のヒメシャラの木。両手を広げるように芽吹くムシカリの葉。ブナの大木には森の影が落ちて、揺れる。見られないものがあったからこそ、いつもより深い眼差しで山を見つめられたように思う。

【今回歩いたコース】
シャクナゲコース
天城縦走登山口(天城高原ゴルフ場)ー涸沢分岐ー万三郎岳ー万二郎岳ー四辻ー天城縦走登山口
コースタイム:約4時間半

【今回着用したアイテム】
W SPHERE LS LOW CREWE

 

 

【プロフィール】
鈴木優香
山岳収集家。大学院卒業後はアウトドアメーカーに入社し、商品企画・デザインを手がける。2016年に独立し、山で見た景色をハンカチに仕立ててゆくプロジェクト「MOUNTAIN COLLECTOR」を開始。山と旅をライフワークとしながら、写真・デザイン・執筆などを通じた表現活動を続けている。
www.mountaincollector.com

写真・文:鈴木優香

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