Dialogue with Nature #06

「春の訪れ - ミツバ岳」 鈴木優香

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鬱蒼とした杉林のなかに点々と現れたのは、ミツマタの花である。葉を持たない枝は周囲に同化して、クリーム色の丸い花だけが浮遊しているように見える。

ときおり感じる甘い香りはミツマタの花から漂い、それを追うように、爽やかな杉の香りが通り抜ける。湿り気を帯びた、懐かしい土の匂いもする。

ミツバ岳は丹沢湖の北に位置する山であり、ミツマタの咲く3月下旬から4月上旬にかけては、多くの登山客がここを訪れる。

登山口からしばらく続く杉林に飽きてきたころ、唐突に辺りが明るくなったので立ち止まると、杉林が途切れて広葉樹の立ち並ぶ森に変わったことに気付いた。ブナやカエデの落ち葉を踏んでいくと、ミツバ岳の山頂に出る。

なだらかで広々とした山頂にはミツマタの群生があり、その日はちょうど満開と思われる華やかさであった。一帯がクリーム色の海になり、人々はその合間を泳ぐようにして歩く。大抵の人はここで満足して来た道を下りてゆくが、私たちは権現山を経由して細川橋へ下りることに決めていた。

賑わう山頂を後にして歩き出すとほどなく、再びミツマタの群生に出合った。けれど、先ほど見たそれとは何かが違う。色の無いブナ林に文字通り花を添えるその様は、健気そのもの。いかにも丹沢らしい寂寥とした道に佇むミツマタは、格段に強く、美しく見えたのだった。

それは、春の訪れを知らせる灯火のようにも思えた。長い冬が終わりを告げ、麗らかな季節がやってくる。

【今回歩いたコース】浅瀬入口バス停〜ミツバ岳(大手山・834m)〜権現山(1018m)〜二本杉峠〜細川橋バス停
コースタイム:約4時間半

【今回着用したアイテム】
W 200 OASIS LS HALF ZIP (color: K)
W 150 ZONE LS CREWE (color: K)

 

【プロフィール】
鈴木優香
山岳収集家。大学院卒業後はアウトドアメーカーに入社し、商品企画・デザインを手がける。2016年に独立し、山で見た景色をハンカチに仕立ててゆくプロジェクト「MOUNTAIN COLLECTOR」を開始。山と旅をライフワークとしながら、写真・デザイン・執筆などを通じた表現活動を続けている。
www.mountaincollector.com

写真・文:鈴木優香

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