2019 Summer Journal #12

若岡拓也コラム「新しいスタートのためのゴール」

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Column
新しいスタートのためのゴール

茂みをかきわけ、アマゾン川の流域で道に迷いながらもジャングルを走り切り、ぼくは30歳にして生まれ変わった。実際には7日間で250kmを走るランニングレースを完走しただけなのだが、少々おおげさにいうと、そういうことなのだ。

 

それ以前、20代の僕はというと、怒られないで1日の仕事を終えることばかりを考えて立ち回っていた。ひなたでうたた寝する犬のように、静かに過ごす。それはそれで居心地のいい日々だったが、20代が終わろうとする時期になり、がくぜんとした。 10年間でたいした成功も失敗もしていなかった。

 

失敗がないというのは、なにもチャレンジをしてこなかったことの裏返しだ。このままではいけない。そんな焦りばかりが募り、勢いあまって会社を辞めてしまった。

 

会社に象徴される、文明的なものから逃れたいという深層心理の働きも手伝ってか、こちらも勢いあまってジャングルを走るレースにエントリーしていた。準備期間は3カ月。毎日トレーニングを続けた。幸い時間はたっぷりあった。それでも、ろくにランニングもしていなかった人間が挑むには、馬鹿げているレースだった。長い距離を走ることが日常になったいまだから、そう思えるが、当時はとにかく、なにかをやり遂げねばという一心だった。

それなりに切実な思いに支えられ、日々ボロボロになっていく体で最後まで走った。膝はきしみ、足首は腫れる。体のすみずみまで痛むのが日常になり、毎日さんざん道に迷い、切り傷、すり傷だらけ。ときには走ることを諦めかけ、うなだれながらも重たい足をひきずる。それでも楽しかった。強烈に生きているという実感があった。

 

最終日、ゴールにたどり着き、そして自分の中でなにかが変わった。結果はどうあれ、挑み続けることがすべてだと気づいた。自分の持てる力をすべて注ぐことに意味があった。その瞬間が30代という新しい10年間を生きるスタートだった。

 

ジャングルでの日々から5年間が過ぎ、30代も折り返し地点を迎えた。その間にフリーランスになり、生活は大きく変化したが、今のところ焦りも迷いもない。そして変わることなく走り続けている。次のゴールに向かって。

 

 

若岡拓也
1984年生まれ、金沢市出身。元新聞記者。2014年に退職後、ブラジルのアマゾンを1週間かけて250km走るステージレース「ジャングルマラソン」に出場。食糧や衣類などの荷物10kgを背負ったまま、ジャングルを駆け抜け、完走を果たす。帰国後、福岡県の東端に位置する上毛町に引っ越し、15年7月から地域おこし協力隊として活動。ライターと兼業しつつ、国内外のステージレースで優勝、入賞するなど走り回っている。 17年8月から山小屋で生活している。

写真: 山田薫
文章: 若岡拓也

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