カフェ巡りが好き、という人は多いんじゃないだろうか。何を隠そう私もその1人だが、カフェという空間は好きでもブラックコーヒーは苦手という、なんともバリスタ泣かせの客なのだ。今も少しばかりの罪悪感を抱きながら、学校帰りの学生の会話とカフェオレをお供にこうして原稿を書いている。
豆選び、焙煎、抽出などお店やスタッフによってそのこだわりは十人十色だが、Coffee Supreme Tokyoは「ホスピタリティー」をモットーに掲げるコーヒーショップ。おいしいコーヒーを提供するのは当たり前だと言い切り、「コーヒーを気軽に楽しんでもらえる空間作り」を何より大切にしているという。ニュージーランド生まれのコーヒーカルチャーに触れてみたくなり、小雨降る奥渋谷へと足を運んだ。
Interview 「最高のコーヒーとホスピタリティーを」
「好きなものの魅力を人に伝える、という仕事に興味があって」と語るのは、Coffee Supreme Tokyoオーナーの松本浩樹さん。音楽、映画、ゲームなどエンタメ業界で長らくPRや販促に携わっていたのだが、結婚を機に、奥様のご実家のあるニュージーランドへ移住。これが大きな転機となる。「もともとカフェ巡りが好きで、現地のCoffee Supremeにも入り浸っていました。友人とお茶していたら偶然社長と居合わせて、流れでそのまま飲みに行き、気付いたら日本進出の話を持ちかけてましたね」。
コーヒーはあくまでもツールだと前置きした上で、「Coffee for Allっていう合言葉があるんですけど。コーヒー通の人だけが足を踏み入れられるような場所ではなく、敷居を下げていろんな人に立ち寄ってもらえる空間作りを僕たちは目指しているんです」と語る。そんなCoffee Supremeのカルチャーに惚れ込んだ松本さんは、3年かけて社長を口説くことに成功。「実はそれまで自分でコーヒーを淹れたことがなくて」という一言には驚いたが、ご自身がコーヒーオタクではないのも評価されたポイントだったそうだ。
Coffee Supremeは1993年にニュージーランドで誕生した、スペシャリティーコーヒーのロースター。これまでニュージーランドとオーストラリアに直営店6店を展開しており、オセアニア地域以外への出店は東京が初めて。「お客さんとたくさん会話したいので、コーヒーはマシンで抽出。ハンドドリップだと、どうしてもスタッフが下を向いてばかりになってしまいますから」と、そのこわだりは国境を越えてもぶれることなく継承されている。
東京進出にあたって松本さんが奥渋谷を選んだのも、ホスピタリティーを最優先に考えてのことだった。「賑やかな駅前などの立地も視察しましたが、通りすがりの人と浅い接点しか持てないお店になってしまいそうな気がして。お客さん1人1人とゆっくりコミュニケーションがとれる、この場所にご縁があってよかったです」。
ここでニュージーランドという国の魅力を松本さんに尋ねると、「飾り気がなく、おおらか。あと何をするにしてもみんなまず応援してくれるんです」と返ってきた。Coffee Supreme Tokyoで発案したグッズが本国に逆輸入された、というエピソードからもその寛容さが窺える。「あとはサステナブルや地産地消がごく当たり前のこととして根付いていますね。ゴミの排出量はとても少ないですし、学校の指定ソックスもメリノウール製だったりして」。
Icebreakerの原材料として採用しているのも、ニュージーランドの南アルプスで育てられるメリノ種の羊毛。もともと山登りが趣味だったという松本さんは「シャツやインナーは愛用してきましたが、スウェット生地のものは今日の取材で初めて着用しました。このまま飛行機に乗ってニュージーランドへ帰りたいくらい」と、軽やかな着心地を語ってくれた。
松本さんはこれまでニュージーランドと日本を行き来する生活を送っていたそうだが、2020年はまだ1度も渡航できていない。「でも今の状況を悲観しているわけではなくて。偶然ですがうちのテナントが3密を避けられる設計だったので、自粛期間中もお客さんの憩いの場所としてなるべくお店は営業していましたし、むしろ常連さんが増えたくらいで」。取材中にも、国籍問わず老若男女がお店に立ち寄っていた。Coffee Supreme Tokyoのある「奥渋」は、小粋な飲食店、本屋、ミニシアターなどが点在する落ち着いた雰囲気のエリアで、散歩にもうってつけだ。
「奥渋にお店を開いて3年が経ちますが、全国にはまだ僕らが出会えていない人がたくさんいて。地方出店にもチャレンジしてみたいし、キッチンカーで全国キャラバンなんて夢も膨らみますね」と、松本さんが今後の展望を教えてくれた。「Coffee Supremeのカルチャーを長く受け継いでいくためにも、まずは次世代にバトンを渡したいという想いが強いです。個性豊かなスタッフが集まっているので、みんなにいろんなチャレンジをさせてあげたいなと思っています」。
2020 Fall – Winter – Journal 特設ページはこちらより
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松本浩樹(Hiroki Matsumoto) / Coffee Supreme Tokyoオーナー。ニュージーランド発のコーヒーロースターCoffee Supremeを日本へ招致し、2017年奥渋谷にて1号店をオープン。ホスピタリティーにこだわり、「コーヒーを気軽に楽しんでもらえる空間作り」を大切にしている。
写真: 山田薫 文章: 藤本麻子,メディアサーフコミュニケーションズ株式会社