ご縁とタイミング。慣れない山道を歩きながら、ふとそんな言葉が思い浮かんだ。人間関係に限らず仕事や趣味など、あらゆるものとの出会いは全てこの2つに尽きる。そしてそれは、土地、いや山との出会いだって例外ではないはずだ。
都内から車を走らせること2時間。山梨県北杜市へ移住し、レストランを営んでいる山戸浩介さん・ユカさんを訪ねた。
Interview 「山暮らしの魅力を届けるレストラン」
「自分のお店を出すことがずっと夢で」と話すのは、料理研究家であるユカさん。開業資金を貯めるために都内の飲食店で働いていたが、浩介さんと知り合って、多趣味な彼にとても刺激を受けたという。「それまでの自分はごく狭い世界しか見えていなかったんです。そんな人の出すお店なんてきっとつまらないだろうなって」。そして2人はそれぞれ仕事を辞めて、なんと8ヶ月間の海外放浪の旅に出る。それまでの貯金は旅で使い切った。
帰国後、浩介さんはアウトドア用品の会社へ再就職。アウトドアスポーツが新たに趣味として加わり、またユカさんのご両親が山梨へ移住したこともあって、週末は自然の中で過ごすことが増えた。そんな矢先に起こった東日本大震災。きっと多くの人がそうであったように、2人がそれまでの暮らし方や住まいへの疑問を抱いたのもこの頃だった。「僕たちが東京で生活しているのは、仕事とか、もともと住んでいた場所っていうだけの理由なんじゃないかと気付いたんです。彼女のご両親もいるし土地勘もあったので」と、退職と山梨への移住を決心した2人。そうして遂に、温めてきた夢を実現させるタイミングが巡ってきた。
2013年、レストラン「DILL eat,life.」が八ヶ岳の麓にオープン。名前の由来は、リラックス効果のあるハーブのディル。またディルの語源には人を和ませるという意味があり、「お店に来てごはんを食べて、景色を楽しんだり、リラックスしてゆっくり和んでもらえるような空間に」という想いも込めた。「生きることの基本である食=eatと、山での暮らし=life。それが感じられるライフスタイルレストランにしたかったんです」。ウェブサイトにも料理の写真に混じってクライミングの1シーンが並んでいたりと、山の暮らしの魅力が散りばめられているのが窺える。
ユカさんが振舞う料理には、地元の有機農家さんから直接仕入れた野菜をメインに使用。「その季節、その日に1番おいしい食材を選んでいます」とこだわりを語る。朝に農家さんが持ってきてくれた野菜を見てからメニューを考えるので、同じものが次の日も食べられるとは限らない。
そしてお店づくりは浩介さんの担当。数ヶ月間大工さんに付きっきりで作業をともにした分、愛着もひとしおだ。「田舎で暮らしていくことを選んだのは、自分の手で自分の暮らしをつくっていきたいっていう気持ちもあって。何でも自分でできるというのが理想です」。
最近では家で過ごす時間が増えたことで、やりたくても手が回っていなかったことにじっくり時間をかけられたそうだ。「家の外壁を2人で塗装したり、コンポストを始めたり、それはすごく楽しかったですね。今までは、やっぱり休日でも天気が良かったら山に行ってばかりだったので」。こんなに長い間山に行かずに過ごしたのは初めてだと聞いて、思わず笑顔がこぼれる。
お店は6月から営業を再開したが、以来ディナータイムは予約制に。それまではお客さんが誰もいない夜でも、閉店時刻まで店は開けておかなければと固定観念に縛られていたそうだが、「食材のロスは、まぁ食べちゃえばいいから問題ないとして。それよりも誰も来なかった時の気持ちや時間のロスが辛かったので、それが解消できてほっとしました」。
心と時間にゆとりができ、トレイルフード作りに力が注げたのも新たな収穫だった。化学調味料などは使わず素材の味を生かした料理を、山やトレイルでも手軽に食べられるよう仕上げたドライフードなのだが、おうち時間が増えたことで通販の需要が高まっていた。「これまではレストランのことで手一杯だったんですが、今ではお店が開けなくてもトレイルフードがあることで気持ちに余裕も生まれていて。今後も、その時々に自分たちがいいと思えるものを選びながら、どんどん新しいことにもチャレンジしていこうと思います」。
さて、取材の至る所で2人の仲の良さは感じていたのだが、「ボーダーデザインのIcebreakerが欲しかったんですが、僕が間違えてXSサイズを買ったことがあって。ごまかしながら何度か着ていたけど、ふと彼女に渡したらちょうどいいサイズ感だったので譲りました」というエピソードにも心が温まった。ユカさんは、今では山に行く時にはそのボーダーシャツをよく着ているそうだ。「首回りがゆったりしているレディースものは普段着として愛用しています。さらっとして着心地がいいのと、濡れても肌が冷えにくい保温力が同居しているのがIcebreakerの魅力ですね」。
2020 Fall – Winter – Journal 特設ページはこちらより
icebreaker/journal04

山戸浩介(Kosuke Yamato),山戸ユカ(Yuka Yamato) / 2013年に東京から八ヶ岳の麓に移住し、レストラン「DILL eat,life.」を開店。アウトドア輸入メーカーのスタッフだった浩介さんと料理研究家のユカさんによる、山暮らしの魅力が詰め込まれたライフスタイルレストランとして話題を呼んでいる。
写真: 山田薫 文章: 藤本麻子,メディアサーフコミュニケーションズ株式会社