アーティストのアリ・ジョンソンは、自身の手作り石鹸ブランドSphaera Soapの製造現場であるミニマリスティックで穏やかな自宅兼スタジオへ案内してくれた。アリの父親が特別に手作りしたカッターで石鹸のブロックを切り出すごとに、カッターの鋼線がメロディを奏でる。
スタジオの窓から見える山と大自然の風景を眺めながら、アリは注文を受けた商品の包装作業を終える。箱と紙に包まれていてもなお、石鹸は受け取った瞬間に香りを漂わせる。
Interview 「日常のルーティンに意識を集中させること」
ウェリントン中心部からンガイオエリアへ少しばかり車を運転したところに、アリ・ジョンソンの自宅兼スタジオは位置する。玄関まで石畳の階段を上っていくと同時に、周囲を生い茂る豊かな植物や花々に安穏な静けさを感じずにはいられない。「この光景はすごく素敵でしょう」。アリはそう言いながら、ポストカードの被写体になりそうなのどかで日当たりの良い、広々としたリビングルームへ案内してくれた。
アリが手作り石鹸を生業にし始めたのは2010年のこと。彫刻を学び、ビジュアルアーティストでもあった彼女を取り巻く環境は出産を経て変化した。大型彫刻を始めとする美術作品を制作する時間は足りなかったが、石鹸作りであれば美的表現と機能性のあるものづくりを実現させるためにぴったりの手段だった。最初は自分のために作っていた石鹸を、次第に近しい友人や家族にも販売するようになる。
「ある時、義理の妹スニがオープンしたてのデザインショップのオーナーと私の商談を設定してくれたんです、私が知らない間にですよ」。アリは笑いながら話す。「それがビジネスとして一歩踏み出す勇気を持つきっかけになりました。今、彼女はブランドマネージャーとしてソーシャルメディアの運用を手伝ってくれています」。
活動を始めて以来、アリは自身のクラフトマンシップを保つことに常に慎重だ。これまで多くのコラボレーションの打診があったが、自分の活動理念を守るために9割は実現を見送ったという。
もとはガレージだった場所を改装したスタジオで、アリは全ての石鹸をコールドプレス製法で手間暇かけて作っている。持続可能で倫理的な素材を選び使用することはSphaeraのブランド精神の根幹を担うところであり、ニュージーランドの地産素材であればできる限り使うようにしている。例えばとある石鹸は彼女の家のすぐ外で収穫できる、健康に良いとされるニュージーランド産の植物「カワカワ」を使用している。
石鹸の塊を作るには約6週間を要する。必要素材を混ぜ合わせたあと、型に流し込む。固まった後はアリの父親が手作りした機械でキューブ状に切り出す。6週間かけてじっくり硬化させた後、一つひとつ手作業で凹凸を滑らかに整える。時間がかかるうえに忍耐力とスキルも必要な作業だ。石鹸が仕上がると、最後にブランド名が小さく印字された紙製小箱に一つ一つそっと包む。
「石鹸を作るときは、それが贈り物であること、贈られる時に何が起きるかをいつも頭の片隅で意識しています。石鹸を手にするとき、人々が最初に感じるのはその香り。だから香りを感じた瞬間、石鹸が肌に触れる時のこと、パッケージ、全ての要素が補い合って特別な体験を生み出すことを大事にしたいと考えてます」
アーティストのアリ・ジョンソンによって2015年に創業された手作り石鹸ブランド。ニュージーランド産の素材を用いて伝統的な技法で時間をかけて作られる。ミニマルで実用的、こだわりを持って日常づかいできる商品。