TRANSPARENCY REPORT

羊と私たちの長い旅の記録 1/9

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icebreakerは、自然と共生し、私たちの「着ること」「暮らすこと」をより良くするための活動をまとめた『Transparency Report』を、2017年から発表してきた。2024年そして2025年とアップデートされたこのレポートの内容を日本語の解説と共に紐解く連載シリーズ「羊と私たちの長い旅の記録」をお届けする。シリーズ第1回は、「人類と羊たちの長い旅」だ。

『Sheep herder』は、”羊を飼う人たち”、という意味の英単語だ。オックスフォードプレスによると、1872年から使われている。この言葉は『Sheep’s herd (”羊の群れ”)』がもとになっていて、12世紀にフランスからイングランドに渡ってきた修道士たちが羊を飼うことを広めたとされる1175年からあるとされる。この頃からイングランド、ウェールズで質の良い羊毛が生産されるようになり、それはドーヴァー海峡を越えてベルギー・フランスの北部にまたがるフランドル地方に輸出されるようになった。羊毛は、後に英国とフランスの「百年戦争」のきっかけのひとつにもなったと言われている。羊毛は、人々の生活に影響を与える一大産業になったのだ。

 

人類と羊たちの長い旅

 

『Sheep’s herd (”羊の群れ”)』についてさらに遡るとこんなことが分かる。フランスの修道士たちが羊を手にするようになったのはスペインでの牧羊の影響にもよるもので、そのスペインでの羊文化は、北アフリカの人々がメリノ種の羊と共にスペインに渡ってきたところからはじまったとされている。いずれも12世紀のことだ。

 

スペインに羊を伝えたのは「アマーズィーグ」と呼ばれる人々(ローマ人たちがつけた名前によると「ベルベル人」)で、彼らは7世紀頃から羊と共にアフリカ大陸、イベリア半島を旅した遊牧民族だ。11世紀に自分たちの国、ムラービト朝を建てた。

 

農耕民族がある土地に定住する一方で、遊牧民族は、動物(特に羊)とともに衣食住をまかなってきた。羊の乳や肉、それらを加工した保存食、羊毛を使った生活用具や衣類を生活の糧として、季節や天候に応じて、長い旅を続けてきた。そのうち18世紀半ばから産業革命が始まり、「中世」が輝かしい光とともに「近代」になり、そのあとに「現代」がバタバタとものすごいスピードでやってきた。衣食住について沢山のことが変わって、次々に新しい発見と発明が繰り返されて便利になった。「”進化”は素晴らしい」と人類は思うようにもなったが、一方では環境汚染、気候変動、格差、南北問題など様々な問題も際立ってくるようにもなった。

 

そんな日々を振り返ると、自然と共に旅をし続けてきた時間のほうが人類にとっては長いことに改めて気が付く。羊を巡る旅に思いを馳せるだけでもそう感じることができるだろう。それはとても長い。人類は、長い間、そのように暮らしてきた。つまり、時に問題も抱えながら繰り返されてきた”進化”を巡る発見や発明とは別のところに、人類が地球上で暮らしていくための「衣食住」についてのひとつの答えは、ずっとそこにあったということなのではないだろうか。

 

「僕たちが思うこと——そして6つのニュース」へ続く

Illustration by Akina Haga 2025

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